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生きるといふこと 死ぬといふこと

先日、知人の落語を聞きに行った帰り、地下鉄のホームで電車を待っていた。電車の到着が少し遅いなあ。と思い出したころ突然アナウンスで「ただいま人身事故がありましたので電車が止まっております。繰り返し申し上げます。ただいま・・・」と告げている。さて、困ったものだ。どうやって帰ろうか。と思案にくれていると一緒にいた9歳の娘が、「パパ、人身事故ってなに?」と聞く。「線路に人が落ちたりしたのかもしれないね。」と答えると、「なんで落ちたのかなあ?」と娘。私はとっさに飛び込みか?と思ったがことばを濁した。わたしは自殺する人のことを説明できるものを持ち合わせていないようだ。
そういえば先月に新幹線に乗ったときにも人身事故で到着が遅れた。因みに、東京の山手線に飛び込み45分間ほど電車を停止させると11万人に影響を及ぼし、数億円の被害が出るそうだ。実際、賠償を請求した例もあるそうだ。

 

わが国の去年の自殺者数は3万2,155人だそうだ。一日平均、88人である。イラクの民間人犠牲者よりも多い数字だ。世界的に見ても先進主要国では一位だそうだ。

 

今月9月は正岡子規の亡くなった月だ。子規の闘病日記とも言える“仰臥満録”(ぎょうがまんろく:寝返りもうてない状態)を読んでみた。死の一年前より書き始め、病状が悪化しはじめたころ、包帯を取り替えるときに自分の腹にあいた穴を始めて眺めこの日初めて腹部の穴を見て驚く。

 

あなといふは小さき穴と思ひしにがらんどなり。 心持悪くなりて泣く。余はにわかに精神が変になってきた。 さあたまらんたまらんどうしやうどうしやう

 

と母に連呼するも母は「しかたがない」と静かな言葉。そして子規はついに家人を使いに出して死を決意し小刀と千枚通しを眺めるが手にとれず、またそこからの死へのプロセスの苦しみと葛藤する。そのうちしゃくりあげて泣き出した。そのうち母は帰ってきた。

 

逆上するから目があけられぬ。
目があけられぬから新聞が読めぬ。
新聞が読めぬからただ考える。
ただ考えるから死の近きを知る。
死の近きを知るからそれまでに楽しみをしてみたくなる。
楽しみをしてみたくなるから突飛なご馳走も食ふて見たくなる。
突飛なご馳走も食ふて見たくなるから雑用がほしくなる。
雑用がほしくなるから書物でも売らうかといふことになる・・・・いやいや書物は売りたくない。
さうなると困る。困るといよいよ逆上する。

 

寝返りもうてない状態でありながらどうしても生きることしか考えることが出来ない人間の性に、そして子規の精神のたくましさに深く感動した。そして子規は9月19日絶命した。

 

2007年9月10日  哲